小児科ブログ

生成AI

2025/09/03

 先日、ChatGPTの最新モデル「GPT-5」がリリースされました。それまでのモデルを「大学生レベル」に例えるなら、最新モデルは「博士号レベルの専門性」を持つと言われています。
 
 振り返れば、初期バージョンが登場したのは2018年でした。その後、2020年に公開されたGPT-3は、45TBもの膨大な情報を学習して、人間と同等以上の処理能力を発揮し大きな話題となりました。しかし当時は誤回答が多く、今ほど実用的ではありませんでした。

 その進化を我が家で実感したエピソードがあります。2年前(GPT-3.5の時代)、娘が試しにLINEの対話型AIアプリを使って「東野圭吾『手紙』の感想文を書いてみて」と頼んでみたところ、返ってきたのは全く別の内容でした(以下アプリとのやりとり)。

 娘「違うんだけど」
  修正をお願いしても、またズレまくった感想が返ってくる。
 娘「違うんだけど。主人公が直貴の本だけど」
  さらに再チャレンジしても、やはりピント外れ。
 娘「は?違うし。「その家を狙ったことに深い根拠はなかった」から始まる小説だけど」
  まるで “無限修正ループ” のようなやりとりに。
  挙げ句の果てに「無料プランのご利用上限になりました。プレミアムプランに加入して、
  無制限の会話をお楽しみ下さい」と、有料版の宣伝が飛び出す始末。
 娘「ウザ」(対話終了)

しかし、ここ1、2年の進化は目覚ましく、娘も2年前の確執がすっかり解消され「チャット君」(学校では「チャッピー」)と呼ぶほど、我が家の中でも市民権を得ています。
 
 医師界隈でも生成AIの利用は広がっています。ある調査では、2024年6月時点で医師全体の生成AI利用率は21%、小児科医では18%でした。ただしこれは1年以上前のデータであり、今ではさらに多くの医師が使っていると思われます。私自身も、会議資料の整理、メールの下書き、研究計画の文案、日常の相談まで、事務作業の多くをAIに助けてもらっています。さらに文章だけでなく、イラストやスライド作成などでも大活躍で、作業効率は格段に上がっています。

 最近では、生成AIで自分好みに作成したキャラクターと結婚した人のニュースまであり、人とAIの関係性はもはや「道具」を超えて新しい段階に入っていると感じます。さらに最新モデルは、既存の知識を組み合わせて新しい表現や文章を生み出す力を持ち、小説・詩・音楽・研究テーマの提案まで可能になっています。つまり、AIは「新しいものを生み出すツール」に進化しつつあります。
 
 AIの台頭により「将来消滅する職業」がしばしば話題になる中で、医師はまだまだ安泰と見られることが多いですが、本当にそうでしょうか。医師は医学的知識や科学的根拠(エビデンス)を吸収して成長しますが、知識やエビデンスの吸収力だけならAIの方が断然優れています。知識だけで論じるなら、医師という職業はAIに取って代わられる可能性があります。しかし、臨床医の醍醐味は、目の前の患者の状態や声・表情・しぐさ、そしてデータに表れない微妙な“違和感”を察知し、総合的に判断することにあります。これはAIには超えられない部分です。さらに医師は、診療に加えて「研究」という方法で自ら新しいエビデンスを生み出すことができる職業でもあります。

 生成AIにより社会の様相が一変してきているように見えますが、大切なのは使い方。私たち医師も、このツールを味方につけて、新しい発見や創造をしていきたいと思うところです。そして何より、若い医師には「知識を吸収するだけでなく、新しいエビデンスを自ら生み出す姿勢」を大切にしてほしいと思います。AIがいかに進歩しても、未解明の病態や治療法を探求し、研究によって医学を前に進める役割は人間にしか担えません。臨床と研究を往復することでこそ、医師という職業は“代替される存在”ではなく“未来をつくる存在”であり続けられると思います。

小児科学講座 石川貴充

※この文章の校正、イラスト作成は生成AIによるサポートを受けました。