小児科ブログ

ひとりぼっちの国際学会:初めてのチャレンジ(その1)

2025/10/20

 飯嶋です。みなさんは国内の学会や研究会にはたびたび参加されると思いますが、国際学会となると少しハードルが高いと感じているかもしれません。そこで、昔話になりますが、私が初めて海外で開催された国際学会に参加したときの話をしたいと思います。(“完全ノンフィクション”です)

 私はこれまで、「一人で」しか国際学会に行ったことがありません。こんなことを書くと、「英語でスマートにやり取りし、流暢なプレゼンをしている姿」を想像されるかもしれません。でも……残念ながら(いや、正直に言うと・・信じてもらえないかもしれませんが)、私は英語がほとんど話せません。

 初めて国際学会に参加したのは今から約20年前。医師になって16年目のことでした。それまで海外に行ったのは新婚旅行だけ。「国際学会って、なんかカッコいいかも」という単純な動機だけで、たまたまネットで見つけたアメリカ・ワシントンD.C.で開催される “Hot Topics in Neonatology” という学会に登録し、ホテルもなんとか自分で予約。そして成田空港から飛行機に乗り込みました。

 機内での英語のセリフは「チキン、プリーズ」と「レッドワイン、プリーズ」のみ。映画を見ても字幕がないので何を言っているのかさっぱりわからず、結局ほとんど眠っているうちにワシントン・ダレス国際空港に到着しました。空港を出ると、すぐにタクシー乗り場があり、迷わず乗り込んでホテル名を告げました。しかし、空港からホテルまでは思いのほか遠く、メーターの金額を見てびっくり。「地下鉄にすればよかった…」と後悔しましたが、時すでに遅し。

 ホテルに着くと、チェックイン。ネット予約の紙を見せても、フロントの女性が何を言っているのか全くわかりません。とりあえず「イエス、イエス」と笑顔で頷いていたら、ルームキーを渡されました。立ち去ろうとすると、後ろから大きな声で呼び止められ、身振りから察するに「エレベーターはそっちよ」と言われたような気がして、慌てて方向転換。なんとか部屋にたどり着きました。

 荷物を置いて少し落ち着くと、学会会場の受付へ。ここでも印刷した登録票を見せると、早口の英語で何か説明され、ひたすら「うんうん」と頷いていたら、分厚い資料をどっさり渡されました。当時は日本人参加者もほとんどおらず、会場で見かけることはありませんでした。講演が始まると、スライドに映る英文は何となくわかるものの、演者の話す内容は全く理解不能。質疑応答も“別世界の言語”でした。周りの人たちがノートPCを開いて何やらメモしている姿がとてもスマートに見えて、「自分もいつかあんなふうに…」と思ったのを覚えています。

 セッションを終えてホテルに戻ると、(発表したわけでもないのに)どっと疲れが出てベッドに倒れ込みました。目を覚ますと頭が重く、体が熱い。体温計はないけれど、どうやら発熱している様子。「疲れか…それとも時差ボケか…」と考えながらも、お腹はしっかり空いている。しかし「この体調でレストランに行くのは無理。何より英語を話すのが無理」と思い、ネットでルームサービスを注文しました。食欲は旺盛で、食べ終わるころには少し元気が出ました。

 歯を磨こうと思って洗面所に行くと・・歯ブラシがない! 日本では当たり前のように置いてあるものが、アメリカでは“自分で買うもの”だということをこのとき初めて知りました。仕方なく1階の売店へ。あちこち探してやっと歯磨きセットを見つけ、レジへ持っていくと、無言で商品を差し出す私に若い女性店員がニコッと微笑んでくれました。そして無言で立ち去ろうとすると「バーイ!」と明るい声。思わず小さく手を挙げて応えました。

 この“店員さんとの数秒の交流”が、ワシントンD.C.でのいちばん温かい思い出になりました。その後もお菓子を買いに行くたびに、「ハーイ」「サンキュー」「バーイ」と言葉を交わすようになり、(会話はしていないのに)なんだか友達ができたような気分でした。
 
 さて、この続きは・・また次回に。
 
地域周産期医療学講座 飯嶋重雄